今回のコラムは「STEP6」の番外編。
ぼくたちが「電気まわり」を考えるうえでお世話になったのは「オフグリッドソーラー」という会社、というより「南澤さん」。あらためて、バスに発電システムを取り付ける際の考え方について質問させていただきました。
バスにソーラーパネルをつける場合、なにから考えていけばいいのでしょうか?
南澤さん:まずは、使いたい電子機器と使用時間を明確にすることです。それによって必要な電気の量が分かりますから。あとは、ソーラーパネルを取り付けられる面積。車の場合は天井の面積に限りがあると思いますので。
ぼくたちの場合は、1日に必要な電気量は2230Wという計算になりました。でも、それがわかっても、どんなソーラーパネルを選べばいいのかはわかりませんでした。
南澤さん:そうですよね。実際、ほとんどの人はキャンピングカー屋さんに持ち込んでいると思います。ソーラーパネルを使った電気システムに必要なのは、「ソーラーパネル」「充電コントローラー」「バッテリー」「インバーター」の4つです。あとは必要に応じてブレーカーを挟んだりもしますが、それらをAmazonでうまく集められるなら、自分たちでやれないことはないです。
たしかにAmazonにもたくさんのパーツが売っていますが、それぞれのパーツには相性もあるんですよね? これとこれの組み合わせなら使えるけど、これとこれだったら機能しないとか……
南澤さん:それは、買う前にひとつひとつのお店で確認するしかないですね。
パーツを売るネットショップというのは、本当にたくさんあるのですが、誰かひとり信頼できる人を見つける、ということが本当に難しかった。高い買い物なのに、相場が全く分からない。どこでどうボッタくられるか分からない。ぼくたちは、南澤さんに出会えて本当によかったと思っています。オフグリッドソーラーさんは、ソーラーパネルを売っている会社というより、「ソーラーパネルを含めた電気システム」をセットで取り扱っている会社ですよね。ほかにも、そのような会社はあるのでしょうか?
南澤さん:システムから考えてくれる会社は、日本に10社ぐらいはあるんじゃないですかね。探せばもっとあるかもしれない。
初歩的なことなんでしょうけど、そもそも「電気システム」として考えること自体が盲点でした。ずっとソーラーパネル単体で考えていましたから。今回のON THE TRIPの場合、南澤さんはどのようにしてシステムを考えたのですか?
南澤さん:1日に必要な電力量がわかっていたので、それを発電するためにどうすればいいかを考えます。バッテリーの蓄電容量を決めて、ソーラーパネルの発電量が決まってくると、あとはバッテリーの個数とパネルの枚数の組み合わせですね。システムによっては、パネルが偶数枚に制限されたりもしますので。ほかには、カー用品には12Vの周辺機器が多いので、一般家庭で使われる交流の100Vの出力に加えて、直流の12Vの出力もいるだろうとか……
それらを自分で考える場合は、どうしたらいいのでしょう? ソーラーパネルから考えがちですが、まずはバッテリーから考えるべきなんですかね?
南澤さん:車の場合はそうかもしれませんね。とはいえ、もともとキャンピングカーだった車にソーラーパネルを取り付ける場合は、ON THE TRIPさんより簡単なんですよ。キャンピングカーには、はじめからサブバッテリーが搭載されていますから。「走行充電」という道路を走りながら発電するシステムがありますが、実はこれ、高速道路を走ってもあんまり貯まらないんですね。そこで、困った、電気が足りない、という相談が多いわけです。その場合はサブバッテリーに充電できればいいわけなので、ソーラーパネルだけを選んで取り付ければいい。今回のON THE TRIPさんは、もともとが普通のバス。普通車のバッテリーしかないわけなので、新たに大容量のサブバッテリーを取り付けるところから考えなくてはいけなかった。
結果的に、ぼくたちは1日に2230Wの電気が必要なので、サブバッテリーを4台=5280W(蓄電容量)と、188Wのソーラーパネルを4枚=752W(晴天時に1800Wほど発電)という組み合わせのシステムに決めました。
南澤さん:理想は、1日に使いたい電力量の3倍のバッテリー、1.5倍のソーラーパネルという組み合わせですね。曇りの日は発電量がガクンと落ちますからね。
その計算からいえば、ぼくたちの場合はソーラーパネルの発電量が不足していますね。ただし、バッテリーの蓄電容量が並みのキャンピングカーとは違う。実際にバスで暮らしはじめて思ったのは、曇りの日は確かにほとんど発電しないのですが、そもそもの蓄電容量が多いので、つまり、貯めている電気が多いので、体感としては電気が減ることがありません。むしろ、いつも電気が余ってます。今のところ、暖房や冷房を使っていないということもありますが……
南澤さん:ふつうのキャンピングカーにあるのは、このリチウムバッテリー1個ぶん、多くてもせいぜい2個ぶんですね。それが、ON THE TRIPさんの場合は4個ある。ソーラーパネルにしても、キャンピングカーであればスペース的に2枚しか貼れないのがふつうです。ON THE TRIPさんの場合は4枚ですからね。
ぼくたちは長さのあるバスだから4枚ものパネルを貼ることができたわけですね。ソーラーパネルには薄型があること、ソーラーは「貼る時代」であることにも驚きました。
南澤さん:薄型は見た目も美しいですからね。車検も通りやすいし。ON THE TRIP さんのバスは、結果的には最新型のシステムとなります。薄型パネルでリチウムバッテリーを4台も搭載してるというのは前例がないですよ。
そもそも、ソーラーパネルの歴史ってどうなってるんですか? ここ数年で急激に進化したりしたのでしょうか?
南澤さん:ソーラーパネルが生まれたのは30年以上昔ですが、原理も、形も、ほとんど変わってないですね。ちょっと効率よくなったぐらいで。薄くなったのも「画期的な発明」というわけでもないんです。ソーラーパネルには青く見えるところ=セルがありますが、あれはもともとペラペラの薄いものだったんですよ。それを守って長持ちさせるためにガラスで覆って、そのガラスを守るためにごついフレームで横を固めたりしていたわけです。そのガラス部分が「ポリカーボン」に変わっただけなんですね。そもそも薄型パネルは10年前にはもう存在しています。もともとヨットとかに乗せていたんですけど、ソーラーパネル自体が安くなってきたので一般に普及するようになったんです。価格としては、薄型パネルは通常パネルの2倍ぐらい違うかな。通常パネルもキャリアがあれば車に乗せられますよ。
そのキャリアがですね、べらぼうに高かったんですよ。仮に外注するとオーダーメイドだから50万になるって言われて。自作しようと思って作り方を調べてはみたのですが、どうにもハードルが高くて。薄型パネルを選ぶことによるリスクというのはあるんですか?
南澤さん:ないですね。軽いし、つけやすいし、値段だけですね。
ぼくたちは、イタリアの「ソルビアン」という会社の薄型パネルを選びました。これは南澤さんが薦めてくれたパネルですが、どうしてこのパネルを提案してくれたんですか?
南澤さん:オフグリッドソーラーでは、薄型パネルの取り扱いはソルビアンしかありません。たくさんの薄型パネルを見てきましたが、ソルビアンが一番ちゃんとしたものを作っていると思いました。もちろん、より高額な薄型パネルには高性能なものがあったりしますが、品質と値段のバランスを含めて考えると一番かな、と。実はソーラーパネルって、見た目では良品、不良品がわからないんです。私たちも専用の機械で測らないとわからないのですが、測ってみると、青い部分のセルが割れちゃってるのがたくさんあるんですよ。あまりに安いパネルを買うと、使ったときに思ったより発電しないなーみたいなことが起こりうるかもしれません。
一部のセルが割れて死んでいても、生きているセルだけで発電するので、気づかないってことですよね。ちなみに、ぼくがバスに貼りつける際に何回かパネルを踏んでしまって、ミシミシと鳴ったりしたんですが大丈夫でしょうか?
南澤さん:基本的には踏んでも大丈夫です。ヨットレースなんか、薄型パネルの上を何度も走り回るわけですからね。
バッテリー、つまり蓄電池は何を基準に選べばいいのでしょう。選択肢は2つですよね? 旧来の鉛バッテリーか、最先端のリチウムバッテリーか。鉛バッテリーは単純に安かろう悪かろうなんですか?
南澤さん:いまはそうですね。昔のリチウムは、安全性がいまひとつだったんです。それが最近になって安定してきた。そのかわりリチウムは価格がべらぼうに高いです。ON THE TRIPのシステムは、リチウムバッテリー4台だけで、100万円を超えてしまう計算になります。
ただ、リチウムを選ぶメリットとしては、鉛と比較したときに、リチウムのほうが小さい。耐久性も高い、充放電や自己放電などのロスも少ない。何より、においがない。なんでも、鉛バッテリーは稼働中に硫黄の温泉のような希硫酸のにおいがするそうですね。
南澤さん:においは、確かにあります。鉛バッテリーの中にもたくさんの種類ありますが、基本的には価格に比例します。鉛とリチウムでは、電気配線の工事にも違いがありますね。鉛バッテリーは簡単ですが、リチウムバッテリーのシステムは複雑で少し難しくなる。
ぼくは工事を見守ることしかできませんでしたが、通信機とか、安全弁とか間に挟まる機械やケーブルが多くて、大変でしたね。
「インバーター」はどうやって選ぶのですか? ちなみにインバーターとは、バッテリーの直流電気を交流電気に変換する機械のことです。つまり、インバーターにはコンセントの差し込み口がついている。ソーラーパネルで発電して、バッテリーに蓄電して、その出口にインバーターがあることで、パソコンなどの電子機器が使えるようになるわけです。
南澤さん:インバーターの選び方は、使用する電子機器を足した量を見るだけですね。ドライヤーや電子レンジなど電力量が多くても使える「でかいやつ」を選ぶか、そこまで大きな電気を必要としないなら「小さいやつ」を選ぶ。
ちなみに、ぼくたちのインバーターの出力は1500W。でかいやつ、ですね。
では、「ソーラーコントローラー」の選び方はどうでしょうか?
南澤さん:これはソーラーパネルとセットになる物なので、ソーラーパネルを買うときに相談してセットで買うべき物ですね。ケーブルも同様です。
ぼくたちは電気が枯渇したときのために、民家のコンセントからも電気をもらって充電できるようにしています。このシステムはどういうものなんですか?
南澤さん:雨の日が続いたりしたときのために、ソーラーパネルの充電のほか、100Vコンセントからも充電できる機器も組み込みました。その際、充電のために駐車できる時間も限られるかもしれないし、当たり前ですが枯渇した電気はすぐに復旧できたほうがいい。このシステムは1時間に300Wぐらい取れるもので、7時間ほどでMAXになる計算ですね。
今回、配線工事を自分たちでやることをあきらめてしまったことが悔しくもあるのですが、南澤さんが配線しているのを見て、これは難しいぞ、と思い知りました。配線工事だけを誰かに頼む場合は、誰に頼めばいいのでしょうか。
南澤さん:キャンピングカー屋さんでもお金を出せば、やってくれるかもしれません。だいたい、10万円ぐらいかな。ただ、それぞれのパーツを持ち込むかたちだと、あんまりいい顔はされないでしょうね。うちでも、お客さんがAmazonで中国で安く買ったというパーツの配線を頼まれたことがあるんですが、やってみるとショートしてしまったんです。損害賠償をどうしようとかではなく、そのとき、社員の命が危なかったんですね。だから、うちも今後は持ち込みは断りましょうという話になりました。自分たちがいつも取り扱っている部品なら、癖があってもわかるんですが、知らない部品だと何が起こるかわかりません。ただ、リチウムバッテリーじゃなければ、おふたりでも配線図を見ながらやってみることができたと思いますよ。うちのお客さんもだいたいそうです。リチウムは通信線や制御装置があるので本当に大変です。
サブバッテリーは2台ならまだしも、3台、4台になると難しいという話がありましたがほんとうですか?
南澤さん:そんなことないと思いますよ。
なるほど。
南澤さん:うちは長野県にある会社ですが、駒ヶ根でセミナーをやったりしてるんです。3ヶ月に1回ぐらいですが、毎回15人ぐらいの参加者がいます。配線の詳しいやり方を3時間ぐらいかけて座学と実技とひと通りやるんですよ。それで、家に帰ってから実際に自分たちでやってもらうと。パーツの選び方からぜんぶ説明するので、あとはネットから買えちゃうかもしれません。ただ、気をつけてほしいのは、「200Wのソーラーパネルがあります」といっても、100V×2Aでも200W。50V×4Aでも200W。たまに電圧が高いソーラーパネルが出回ってたりするんですけど、それだとコントローラーが対応できないこともあります。だから、基本的には電圧が低いほうを買ったほうがいいかもしれない。
この話がなんのことだかわからない、という場合は、セミナーに参加してみたほうがいいかもしれませんね。
南澤さん、ぼくたちの力になってくださって、本当にありがとうございました。さて、次回は塗装。これはちゃんと自分たちでやりました(笑)